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2025.06.16

変化の時代を生き抜く“軸”としてのパーパス

客員研究員 米田晃

近年、多くの企業が「パーパス(Purpose)」に注目しつつある。パーパスとは、企業の存在意義や社会における役割を示すものであり、「私たちはなぜ存在するのか」という問いに対する答えである。単なる利益追求を超えて、企業が社会の中で果たすべき使命を明確に言語化したものである。

パーパスに注目が集まる背景には、企業と社会との関係が大きく変化している点が挙げられる。気候変動や格差拡大といったグローバルな課題が顕在化し、企業にも「利益だけでなく社会的責任を果たしているか」が問われるようになった。もちろん、従来からCSR(企業の社会的責任)という枠組みは存在していたが、パーパスが注目されているのは、その責任を“外からの義務”としてではなく、企業の内発的な“志”に結びつける必要性が高まっているからである。また、2019年には米国ビジネス・ラウンドテーブルが、従来の「株主第一主義」から「ステークホルダー重視」へと方針を転換したことも、経営のあり方を問い直す契機となった。

パーパスはしばしば経営理念やミッション、ビジョンと混同されがちだが、そこには本質的な違いがある。経営理念は価値観、ミッションは企業の使命、ビジョンは将来像を示す。それらは多くの場合、経営層から全社へと共有される。

一方で、パーパスの最大の特徴は、従業員一人ひとりが“自分ごと”として捉え、日々の業務の中で体現していく点にある。つまり、パーパスは上層部が掲げるスローガンではなく、現場で働く個人が「何のために働くのか」を自ら問い直し、行動の軸として内面化していくものである。

この考えを実践している代表的な企業の一つが、ソニーグループ株式会社である。同社は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げ、その実現のために社内Webサイトで社員が自身のパーパスを語る「My Purpose」という特集を展開している。これは形式的な研修ではなく、社員一人ひとりが自分の言葉で語ることを通じて、パーパスを自らの行動と結びつけていく場となっている。

では、パーパスを“自分ごと”として実践する人材は、どうすれば育つのか。重要なのは、上司と部下の真摯な対話の機会、意見を言いやすい職場風土といった、「場」を整えることにある。パーパスは、こうした場における対話と経験を通じて、社員自らの中に芽生えていくものなのである。